ハカセ桜(第4回)

<宇治のハカセ桜>の四季、第4回では生命力に満ちた盛夏の姿をお届けします。
福岡 伸一 2026.09.10
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盛夏のハカセ桜

酷暑日が続いたこの夏。宇治のハカセ桜も毎日ジリジリ照りつける陽光を一身に浴びて、青々とした葉っぱを茂らせた。木陰に入ると少しだけ涼しい。

人々は、桜咲く時期だけ桜を愛でるが、花が散ってしまうとまもなくその存在を忘れてしまう。土手の桜も、桜並木の桜も、街の風景に溶けてしまう。ところが桜はまさにこの時期、ひそかにもう次の年の用意をしている。

植物の芽の先、いちばん細胞分裂が盛んな部分を生長点という。青葉茂れる頃、生長点は盛んに葉っぱを作り出し、光合成を盛んに行う。しかし生長点のいくつかの細胞は、花を作るため特別な分化を果たす。分化とは細胞の専門化のこと。花を作るためのもとになる細胞群を「花芽」という。形成された花芽は、そのままいったん成長を止めて休眠状態に入る。つまり、暖かくなって春が来たのを知ってから、桜は花を作るのではない。桜が花を咲かせる準備を始めるのは、なんと前年の夏のことなのだ。

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