福岡ハカセの<トポス/ロゴス/ピュシス> Vol.2

前回取り上げた、舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を見てきました。今回はその感想を書いていきます。
福岡 伸一 2026.01.16
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舞台「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」はまぎれもない大傑作

舞台「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を、2026年1月10日、池袋の東京芸術劇場で見た。パンフレットに解説の一文を寄稿させていただいた御縁で初日公演に立ち会うことができたのだ。緻密に構成された村上春樹の原作小説は、一体どんなふうに舞台化されているのだろうか。答えは<完璧なまでに>である。しかも極めて斬新な形で演劇化されていた。

プレイハウスの場内は満席。原作者の村上春樹本人も来場していた。正面の幕には、壁に囲まれた街の銅版画のような地図が大きく映し出されている(落田洋子 作画)。私は、原作小説の扉につけられていた黒地に銀色の地図を思い出した。いやが上にも期待が高まる。

暗転した舞台が明るくなると、そこに映し出された光景は「世界の終わり」だった。断片的に流れ去ったノイズのような音声は、かすかに飛行機墜落事故のニュースを伝えていた。

「世界の終わり」は、茜色の地平線と群青色の空に満たされ、渦巻き状の枝を持つ木々のシルエットが映える。藤城清治の影絵を思い起こさせるような、夢想的で、そこはかとない懐かしさが漂う。そこに「僕」(駒木根葵汰と島村龍乃介のWキャスト。私が見た初回は、駒木根が演じた)と一角獣の群れが登場する。トゥシューズとハンドバーを身に着けたダンサーたちが演じる黄金色の一角獣たちは、一見、ライオン・キング的な仕掛けで動作をするのだが、その舞いは艷やかなエロスに満ちている。ダンスを含め全体の演出・振付は、フランス演劇界の鬼才フィリップ・ドゥクフレである。

この大胆なオープニングを見ただけで私は震えた。そして確信した。このお芝居は成功間違いない。

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